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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)4247号 判決

原告 吉岡春来

原告 吉岡初江

右両名訴訟代理人弁護士 山本栄則

同 名城潔

同 吉岡桂輔

同 西村寿男

同 近藤節男

被告 日本通信建設株式会社

右代表者代表取締役 舩津重正

右訴訟代理人弁護士 真鍋薫

補助参加人 甲野太郎

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 桃井銈次

主文

一  被告は原告らに対し、それぞれ金三三八万二五〇〇円および右各金員に対する昭和四八年三月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告らのその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

四  補助参加により生じた費用は参加人甲野二郎の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、金一四六六万六七九一円およびこれに対する昭和四八年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張する事実

一  請求原因

(一)  被告は肩書地に本店を置き、日本電信電話公社の配線等各種工事の請負を営業の目的とする資本金一一億二〇〇〇万円の株式会社であり、原告らは訴外亡吉岡直樹の両親で、その親権者である。

(二)  事故の発生

原告らの長男訴外亡直樹(当時三歳一〇ヶ月)は次の事故で死亡した。

(1) 発生日時 昭和四八年三月一〇日午後三時半頃

(2) 発生地 横浜市瀬谷区瀬谷町四二八一所在、被告会社瀬谷工事事務所(岡田哲生工場長)の資材置場内

(3) 事故の態様

右訴外人が、同じく原告らの子訴外秀樹(当時八歳)、近くに住む補助参加人甲野二郎(当時一一歳)の三人で、右資材置場内のコンクリート製電柱の野積み場付近で遊んでいたところ、右野積み電柱の固定が十分でなかったため、一番端の電柱が転り落ち、下にいた同訴外人は落ちてきた電柱の下敷きとなり、内臓破裂で死亡するに至った。

(三)  被告の不法行為責任

1 被告の被用者である訴外南村雅英は、本件事故発生当時、右瀬谷工事事務所に資材置場の管理人として勤務し、その設備管理・監視および資材管理等の管理業務を遂行していたが、次のような過失により本件事故を惹起せしめた。

(1) 第一に、本件資材置場は、被告会社によりコンクリート電柱等の野積み置場として使用され(その集積状況は(3)に述べる。)、且つコンクリート電柱を運搬する大型車が常時出入りするなど危険な場所であったのであるから、訴外南村には、自らあるいは被告会社に要求するなどして近隣の子供達が絶対に出入りできないような設備を設けて右資材置場を管理する注意義務があった。

しかるに同人はこれを怠り、現場南側の車出入口には、有刺鉄線、扉などの設備を一切設けず開放したままであったうえ、一応周囲(南、西、北側)に張りめぐらしてあった有刺鉄線も盗難防止のための形ばかりのもので、鉄線の間隔が著しく広く、ところどころゆるんでいたのに修理せず近隣の子供達が自由に出入りできる状態のまま放置した。

このため現に、本件事故以前にも、毎日近隣の子供達が本件現場を遊び場所として利用しており、亡直樹らも当日南西側の有刺鉄線のゆるんだ部分から現場に入り込んだものである。

(2) 第二に、訴外南村には、本件現場のような危険な場所に子供が出入りしないか常に注意を払い、もし子供が遊んでいたならば即刻現場外へ退出させるよう監視する注意義務があったにもかかわらず、同人はこれを怠り、本件事故が発生するまで訴外亡直樹らが現場で遊んでいたことに気づかなかった。

すなわち、本件資材置場の南側には訴外佐川商店の資材置場があり、被告会社事務所は右佐川商店から約三〇メートル東側に存在していたため、当該事務所と現場とは直線距離にして約五〇メートルも離れていたうえ、さほど広くない本件資材置場(約一二五〇平方メートル)には、事故当時、その二分の一の面積にコンクリート電柱が野積みされていた(高さ約一メートル)ほか、右電柱を搬出入する車の出入りも多かったため、右資材置場に背の低い子供が出入りしている様子は被告会社事務所からは見え難い状況であった。

したがって、訴外南村には、本件電柱置場の管理に万全を期すべく、資材置場内に全体を見渡せる監視事務所を設け、あるいは特定の監視人を置くなどの配慮をすべき義務があったにもかかわらず、いずれの措置をも採らなかったばかりか、日頃は漫然と大型車の出入りに注意を注ぐだけで、他の職務の合間に時折本件現場の方に眼を向ける程度の管理しかしていなかった。

特に、本件事故当日は土曜日であったため、同訴外人は午前中で業務を終了したが、午後からの現場の管理について何らの配慮もせず帰宅してしまった。したがって、事故発生時には、何らの監視措置も採っていなかったものである。

(3) 本件事故当時の資材置場における電柱集積の状況は次のとおりであった。

現場の南西隅に長さ七メートル五〇センチおよび七メートルのコンクリート製電柱が五段重ねで八六本、その北側に同じ長さの同電柱が四段重ねで八二本、その東側に使用した長さ一五メートルの同電柱が一〇本野積みされ、さらに、同所北東隅には丸太が五二本、その東側にコンクリート電柱(長さ七メートル五〇センチと七メートルのもの)が野積みされていた。

右のように、本件資材置場には何十本ものコンクリート電柱等を三段、四段に野積みしていたのであるから、訴外南村には、積み上げた電柱の各段間に角材(台木)をはさみ、且つ両端部にクサビを打つなどして電柱を固定させるとともに、電柱を搬出した場合には、それに応じて台木の長さを調節するなど、電柱が転り落ちる危険を防止する措置を講ずる注意義務があった。

しかるに同人はこれを怠り、本件事故が発生した野積み部分については、両端に転落防止のためのクサビを施さず、事故前日三段目および四段目の電柱を搬出した際にも台木を調節しなかった。このため、三段目と四段目の境の台木が電柱の間から長く突き出たままの状態であったところ、訴外甲野二郎がその突き出している台木の端に乗って揺らしたことがきっかけとなり電柱が転落したものである。

(4) 以上のように、本件事故は訴外南村の右各過失に基づき発生した不法行為といわねばならないところ、同訴外人は被告会社の被用者であり、被告会社の事業の執行につきなされたものであるから、被告会社は原告らに対して民法七一五条による損害賠償責任がある。

2 本件資材置場には、その設置管理に次の瑕疵があった(なお、原告らは民法七〇九条を根拠とする旨明示するが、その訴旨を善解すれば、ひっきょう、民法七一七条の土地工作物の設置保存の瑕疵による不法行為を主張するにある。)。

すなわち、本件資材置場は土地の工作物と解せられるところ、前記(1)のように、何十本ものコンクリート電柱の野積み場として使用され、これを運搬する大型車が常時出入りする危険な場所であったのであるから、近隣の子供達の立入りを阻む厳重な設備を設置し、また子供達の現場への立入りを監視できるように、資材置場全体を見渡せる位置に監視事務所を設け、且つ、野積み電柱が転落しないよう充分な管理をし、もって危険な工作物たる本件資材置場について瑕疵なきを期すべきである。

しかるに実際には前記のように、周囲に張りめぐらされた有刺鉄線は、事故当時にはゆるみたるみが生じ、上下の間隔が著しく広くなっているなど子供達の出入りを阻止する機能を有していなかったうえ、資材置場への子供達の立入りを監視する施設は何ら設置されていなかった。そして、野積みされた電柱の両端に転落防止のためのクサビ等が施されず、また電柱の搬出に応じた台木の調節等も十分になされていなかった。

以上、本件資材置場には土地の工作物としての設置管理に瑕疵があったものであるところ、右資材置場は被告会社が設置し且つ管理していたのであるから、被告会社は右の瑕疵から生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(四)  損害

損害総額 金一四六六万六七九一円

(内訳)

1 死亡による逸失利益 金一〇〇六万六七九一円

(a) 年間収入 金一四九万三七〇〇円

労働大臣官房労働統計調査部昭和四六年度賃金構造(賃金センサス)基本統計調査統計表第一表のうち、全産業平均・旧大、新大卒として計算すると、月間きまって支給される現金給与額の平均は九万一四〇〇円、年間賞与その他の特別給与額の平均は三九万六九〇〇円であるから、年間の収入は一四九万三七〇〇円である。

(b) 年間喪失純利益 金七四万六八五〇円

生活費を収入の五割として計算する。

(c) 稼働期間 三八年間

二二歳より六〇歳までの三八年間

(d) 逸失利益

右年間喪失純利益にホフマン式計数一三・四七九一四九九八(同係数期間五七年間二六・五九五二一七六二と同係数期間一九年間一三・一一六〇六七六四との差)を乗じると、逸失利益は金一〇〇六万六七九一円となる。

なお、訴外亡直樹の母である原告吉岡初江の父は、当時保土ヶ谷カントリークラブの副支配人であり、兄二人はプロゴルファーの河野高明、光隆であって、原告らの家庭は経済的に余裕のある家柄であるため、両親(原告ら)および親族は将来亡直樹を大学に進学させようと思っており、経済的にも十分に大学に進学させるに足る資力を持っていたので、右逸失利益は、亡直樹が両親らの希望どおり大学に進学し卒業したものとして計算した。

2 積極損害 合計金一三〇万円

(a) 葬儀費 金八〇万円

原告らの間には事故当時二人の子がいたが、訴外秀樹は養子であり、亡直樹は実の子であったうえ、前記のように原告吉岡家ならびに親族は社会的に相当の家柄であったため、葬儀も一般より盛大に行わざるをえず、金八五万円の費用がかかった。なお、被告会社より受領した香典五万円は右費用より差し引いた。

(b) 墳墓建築費 金五〇万円

亡直樹は吉岡家の長男であり、わずか三歳で悲惨な死に方をしたため、原告らはせめて同人のために新しく墓を建て、手厚く葬ってやりたいと考えている。

3 慰藉料 金三〇〇万円

原告両名は亡直樹を本件事故で失ったことにより精神的損害を受けたが、これを金銭に評価すれば、各自金一五〇万円、合計金三〇〇万円が相当である。

4 弁護士費用 金三〇万円

原告らは被告が任意に損害賠償の支払に応じないので、已むなく弁護士山本栄則、同名城潔、同吉岡桂輔、同西村寿男、同近藤節男に本件訴訟の提起と追行を委任し、同人らに着手金として金一〇万円を支払ったほか、本件勝訴認容額の一割以内の成功報酬を支払うことを約した。そうすると弁護士費用は金一〇〇万円を下らないが、そのうち右着手金一〇万円と成功報酬のうち金二〇万円の合計金三〇万円の賠償を求める。

(五)  よって原告らは被告に対し、被告の不法行為による損害金一四六六万六七九一円およびこれに対する右不法行為のなされた日である昭和四八年三月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因第(一)項のうち、原告らと訴外亡直樹との身分関係は不知、その余は認める。

(二)  同第(二)項のうち、訴外亡直樹が事故で内臓破裂により死亡したことおよび事故の発生日時・場所は認め、事故の態様のうち、野積み電柱の固定が十分でなかったことは否認し、その余は不知。

(三)1  同第(三)項の1の(1)のうち、本件資材置場が被告会社によりコンクリート電柱等の野積み置場として使用されていたこと、周囲の有刺鉄線は盗難防止等のために張りめぐらされたことは認め、亡直樹らが南西隅の有刺鉄線のゆるんだ部分から現場に入り込んだことは不知、その余は否認する。

同項の1の(2)のうち、訴外南村は、本件現場に子供が出入りしないか常に注意し、子供が遊んでいたなら即刻現場外へ退出させるよう監視する注意義務、すなわち、資材置場全体を見渡せる監視事務所を設け、或るいは特定の監視人を配置する義務があったこと、同訴外人が職務の合間に時折現場に眼を向ける程度の管理しかしていなかったことは否認し、本件資材置場の南側に佐川商店の資材置場があったことは認める。

同項の1の(3)のうち、事故当時、本件資材置場の南西隅に北と南の二ヶ所に分けて長さ七メートル五〇センチおよび七メートルのコンクリート電柱が、その東側に長さ一五メートルのコンクリート電柱が、同所北東隅に木製の電柱(丸太)が、さらにその東側に長さ七メートルのコンクリート電柱がそれぞれ野積みされていたこと事故前日本件事故の発生した野積み部分の電柱を数本搬出したことは認め、訴外甲野二郎の行動は不知、その余は否認する。

同項の1の(4)は争う。

2  同項の2は否認

(四)  請求原因第(四)項、第(五)項は争う。

三  抗弁

1  仮に被告に損害賠償責任があるとしても、それは訴外甲野二郎、補助参加人甲野太郎、同花子らとの連帯債務であり、本件事故の事情からすれば、被告には負担部分はない。

2  仮に被告に負担部分があるとしても、原告らには本件事故につき重大な過失がある。そもそも子供の監護責任は第一次的には親権者等法的に監護義務ある者にあるのであるから、自分の子が他人の管理する場所に侵入するのを防止するのは親の義務である。しかるに、亡直樹の親権者である原告らは右監護義務を怠り、本件事故当時、子供がどこで何をしていたかさえ知らず、同人らが本件資材置場に無断で立ち入るのを放任したものである。また、本件資材置場の周囲には有刺鉄線が張りめぐらされていたのであるから、その中に無断で立ち入るべきでないことは亡直樹ら幼児にも知りえたものであるのに、同人らは無断で現場に侵入し、本件事故に遭ったものである。

このように、原告ら被害者の側にも本件事故発生について重大な過失があるので、本件損害額の算定については右過失を斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

五  補助参加人らの主張

本件事故は、野積み電柱の各段の間に転落防止等のためのクサビが施されていなかったために発生したものであり、補助参加人らに本件事故について責任があるとの被告の主張は争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因第(一)項の事実は、原告らと訴外亡吉岡直樹(以下単に亡直樹という。)との身分関係を除き当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、右身分関係は原告ら主張のとおりであることが認められる。

二  事故の発生(請求原因第(二)項)

昭和四八年三月一〇日午後三時半頃、横浜市瀬谷区瀬谷町四二八一所在の被告会社瀬谷工事事務所(岡田哲生工場長)の資材置場において、亡直樹がコンクリート製電柱の下敷きとなり、内臓破裂で死亡したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、同人は、兄である訴外吉岡秀樹(当時八歳)、近所に住む補助参加人甲野二郎らとともに本件資材置場のコンクリート製電柱野積み場で遊んでいるうち、右野積み電柱が転落して本件事故に遭ったものであることが認められる(その位置は別紙図面の×印付近である。)。

なお、電柱の固定が充分でなかったため事故が発生したとの事実は、被告の不法行為責任(訴外南村雅英の過失または資材置場の設置・管理の瑕疵に基づくもの)に関係する事実であるので、まとめて後に判示する。

三  不法行為責任

(一)  使用者責任(請求原因第(三)項の1)について

1  訴外南村雅英の地位

≪証拠省略≫によれば、訴外南村は本件事故当時、被告会社瀬谷工事事務所(以下単に事務所という。)に「材料主任」として勤務し、事務所敷地内の資材倉庫および本件資材置場に保管される約三〇〇点の各種工事材料(この中には本件電柱も含む。)の出納簿への記入等、資材出し入れの管理をその職務としていたこと、本件資材置場にメーカーが電柱を搬入する際にはこれに立会い、電柱をどの位置に何段で集積するかなどについてメーカーに指示していたこと、本件事故を取り扱った警察では、南村を本件現場の管理者と考え、業務上過失致死被疑者として同人を書類送検したことなどが認められる。

しかし、右各事実を総合してもなお、原告ら主張のように、南村が本件資材置場の設備管理・監視等の管理業務をも担当する「管理人」であったとまで言えるか否かについては疑問がある。

けだし、≪証拠省略≫によれば、本件資材置場は事務所工事長である岡田哲生が自ら選定して設置し、周囲の柵、有刺鉄線もすべて同人がその仕様を業者に直接指示して張りめぐらせたこと、現場を見廻ることは必ずしも明確に南村の仕事として職務分担されていたわけではなく、事務所の他の従業員も随時見廻っていたこと、資材置場からの電柱の搬出は、下請会社である三ツ沢電設株式会社の従業員らが自ら責任をもってこれにあたる取り決めがあって、南村は搬出本数と残りの本数とを数えて帳簿上の数字と合致するかどうかを確認するという資材管理の仕事を主な職務としていたものであること、また、警察から本件事故につき被疑事件の送致を受けた検察庁では、南村ではなく、むしろ岡田工事長を本件事故の責任者とみるかのごとき口吻をもらしたことなどの諸事実が認められるからである。

結局、右認定の諸事実をも考慮すれば、南村が本件資材置場の管理者として、設備管理、監視等の職務をも遂行していたと認めることはできず、したがって、資材置場内で発生した本件事故につき同人の現場管理上の過失を問題として使用者責任による損害賠償を求める原告らの主張は、その余の判断をするまでもなく理由がないことになる。

(二)  資材置場の設置管理の瑕疵について

1  資材置場の状況

本件資材置場は被告会社によりコンクリート電柱等の野積み置場として使用され、周囲(北、西、南側)には有刺鉄線が張りめぐらされていたこと、事故当時現場の南西隅に北と南の二ヶ所に分けて長さ七メートル五〇センチおよび七メートルのコンクリート電柱が、その東側に長さ一五メートルの同電柱が、同所北東隅に木製電柱が、さらにその東側に長さ七メートルのコンクリート電柱がそれぞれ野積みされ、現場南側に訴外佐川商店の資材置場があったことは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すれば、現場の電柱集積の状況は別紙図面のとおりであったことが認められる。

すなわち、南西隅北側には長さ七メートル五〇センチおよび七メートルのコンクリート電柱がとり混ぜて八一本(地面から一段目二四本、二段目二三本、三段目一七本、四段目一七本の四段に積載―図面A)、その南側に同じく七メートル五〇センチ、七メートルのコンクリート電柱が五段重ねで八六本(図面B)、その東側に長さ一五メートルのコンクリート電柱が一〇本(図面C)、同所北東隅に木製電柱が五二本(図面D)、その南側に七メートル五〇センチおよび七メートルのコンクリート電柱が三段重ねで二三本(図面E)それぞれ野積みされていた。

そして現場の周囲(北、西、南側)には、高さ約一メートル二〇センチの杭が一メートル五〇センチ間隔で立てられ、これに有刺鉄線が横に各三〇センチの間隔で四段に張られていた。

2  右のように、本件資材置場には後に判示するように多数の電柱が、各段間に枕木を通し、両端をクサビで歯止めするなどして何段にも集積されていたのであり、且つ周囲には有刺鉄線の柵が設置されていたのであるから、本件資材置場は、これを全体として民法七一七条の土地の工作物に該当するものということができる。

そして、電柱が集積・保管されているだけならば、本件資材置場はそれほど危険な場所であったとは必ずしも言えないが、現場には電柱を搬出入する大型車が毎日のように出入りし、一本が四〇〇キロもある電柱の積載卸下の作業をしていたこと、またその際の電柱の固定が不充分であれば転落の可能性もあったことなどからみれば、一応危険な場所であったと言わざるを得ず、また現場の北側、東側には住宅街が存し、近隣の子供達が本件事故以前から無断で現場に出入りし、事実上遊び場として利用していたことを合わせ考慮すれば、右資材置場は、単に電柱を取り扱う被告会社の従業員、下請会社の作業員等の安全を確保するのみでは足りず、近隣の子供達が立ち入らないよう、また仮に無断で侵入して遊ぶことがあっても、その子供達に危険が及ばないよう設置管理がなされなければならなかったものと解せられる。

3  そこで以下、(イ)周囲の有刺鉄線の柵、出入口等の設備は近隣の子供達の立入りを阻むに足りるものであったか否か、(ロ)現場監視施設の有無およびその必要性、(ハ)集積電柱の固定は充分になされていたか否かの各争点について、順次証拠を検討する。

(イ) ≪証拠省略≫によれば、本件資材置場の周囲には前示のような有刺鉄線の柵が張りめぐらされていたが、事故当時には縦に有刺鉄線を張っていなかったため、ところどころ上下にゆるみが生じていたこと、とりわけ現場南西隅(図面イ点)は杭が倒壊しそうになっていて有刺鉄線もかなりたるんでいたことが認められ、子供ならば比較的容易にくぐり抜けることができたであろうと推認される(現に、亡直樹と秀樹は当日この地点から現場に入ったものである。また甲野二郎も図面ロ点の有刺鉄線をくぐり抜けて現場に侵入したことが認められる。)。≪証拠判断省略≫

さらに≪証拠省略≫によれば、本件資材置場の出入口(幅約七メートル図面ハ地点)には有刺鉄線、扉等がなく、ただ二本の門柱に鎖が二段に掛けられるようにしていたのみであったうえ、鎖を掛けないで開放したままにしたこともあったことが認められる。また仮に常時掛けていたとしても鎖の間隔が五〇センチ位もあったことを考慮すれば、現場へ侵入することは有刺鉄線の部分から立ち入るよりも一層容易であったと推認される(現に甲野二郎は、本件事故以前にも何度かこの出入口部分から入ったことがあった。)

以上のように、本件資材置場の周囲の柵も出入口の鎖もいずれも子供達の現場への事実上の立ち入りを阻止する機能を有していなかったことが認められる。

(ロ) 次に、≪証拠省略≫によれば、事務所は現場から東へ約七〇~八〇メートルも離れた地点にあり、事務所窓から本件資材置場全体を見渡すことは、佐川商店の車の陰になる部分もあり若干困難であったこと、しかるに岡田、南村らは現場についてそれほど危険な場所であると認識していなかったこともあって、時々、現場に見廻りにゆく程度で、定期的に現場を監視する措置はとらず、また特別の監視施設も設置していなかったことが認められる。殊に、本件事故発生当日は土曜日であったため、現場に対する特別の監視措置は何らなされていなかったことが認められる。

しかし、本件資材置場に対する被告会社の監視状況が右のようなものであったとしても、原告主張のように、それが本件資材置場の設置・管理上の瑕疵と評価しうるかについては疑問がある。けだし、本件資材置場には、前記のように電柱を搬出入する車が出入りして危険な作業を行うこともあったが、それも一日のうちのごくわずかの時間帯であって、平常時には電柱が集積されているだけの、格別危険性のある場所ではなかったのであり、また周囲には、右述のような不備があったにせよ、ともかく有刺鉄線の柵で囲いがなされていたのであるから、それ以上に、特定の監視施設を設け、あるいは特定の監視人を置くなどして常時監視措置を取らなければ、本件資材置場の管理に瑕疵があったとするのは、被告に酷な、余りにも過大な要求というべきである。

したがって、本件現場に特定の監視施設などが設置されていなかったことをもって、本件資材置場の設置、管理に瑕疵があったとする原告らの主張には理由がない。

(ハ) 次に、野積み電柱の管理状況について検討する。

≪証拠省略≫によれば、以下の事実が認められる。

本件コンクリート電柱は、メーカーである日本コンクリートポールが直接本件資材置場に搬入するが、その際、南村が立ち会い、どの位置に何段で積み上げるかなどの集積方法について指示していた。そして、何段かに積み上げる場合には、各段間の、電柱の先端近くと根元近くの二ヶ所または中間を加えて三ヶ所に、それぞれ角材(縦三センチ、横六センチ位の松の木で長さは約一メートル八〇センチ位のもの、以下枕木という。)を通し、さらに枕木と電柱との接点部分に転落防止用のクサビを差し込み、これによって電柱を固定していた。また、このようにして集積された電柱を搬出する場合には、取り出したあと、余った枕木を切り、クサビも調節して再び電柱を固定する取扱いとなっていた。

ところで、本件事故の前日(三月九日)、被告会社の下請会社(三ツ沢電設株式会社)の従業員である訴外厚ヶ瀬通弘らは、別紙図面Aの集積部分から七メートル五〇センチと七メートルの電柱とを合わせて一一本搬出したが、右二種類の電柱が各段に混然と積まれていたため、最上段である四段目のみでなく、三段目からも電柱を取り出した。

ところが、右厚ヶ瀬らは、電柱を取り出したあと、三段目と四段目の電柱の間から突き出た枕木を切り取らなかったため、枕木が長く(約一メートル三〇センチ)端から伸びた状態のままとなっていた。

そして、この枕木の上に甲野二郎が乗って跳びはねたため、右枕木はくの字型に折れ曲がり、この上を四段目の電柱が次々に転り落ち、たまたま下にいた亡直樹がその下敷きとなったものである。(証人厚ヶ瀬は、枕木が突き出た状態では、理論上その下の段から電柱を取り出すことは不可能であるとして、当日確かに枕木を切り取ったと述べるが、以上の認定を覆えすに足りない。)

また、当時一一歳で、体重わずか三〇キロ足らずの甲野二郎が枕木の上で跳びはねただけで重量約四〇〇キロもある電柱が転落したことから考えると、厚ヶ瀬らは電柱を取り出したあとクサビを差し込まなかったか、或るいは、差し込んだとしても充分に電柱を固定するに至らなかったものと推認される。

そして、搬出後に現場を見廻った南村も、搬出本数の確認はしたが、電柱の固定が充分であるかについて格別の点検はせず、クサビを調節することもしなかった。したがって、集積電柱は充分固定されないまま放置されていたことになる。

4  以上を総合すれば、本件資材置場には、周囲の柵および出入口の設備ならびに集積電柱の固定にそれぞれ右のような設置、管理上の瑕疵があったものと解せられ、右瑕疵があいまって本件事故が発生したものというべきである。したがって、右資材置場を設置し管理していた被告会社には、右瑕疵から生じた本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

四  過失相殺および補助参加人らの責任について

(一)  ≪証拠省略≫によれば、原告らの子である訴外秀樹は本件事故以前にも本件資材置場に無断で入って遊んだことがあり、その際大人に注意されたこともあったのに、再び亡直樹を連れて現場に侵入し、本件事故となったものであること、同人らの父親である原告吉岡春来は、事故以前に子供達が毎日のように現場で遊んでいたのを見かけ、秀樹自身が他の子供と一緒に遊んでいたことも知っていたにもかかわらず、日頃同人および亡直樹に対し、それほど厳しく現場に立ち入らないよう注意せず、むしろ同人らを放任していたこと、また母親である原告吉岡初江も、当時洋品店に手伝いに行っていたこともあって、亡直樹を秀樹と一緒に遊ばせることがあったが、その際、特別の注意は与えていなかったことが認められる。

ところで、三歳八ヶ月の幼児であった亡直樹は別としても、少なくとも秀樹は当時八歳であったのであるから、原告らが同人に対し、日頃、他人の管理する場所に無断で入ってはならないこと、現場は危険だから近寄らないことなどについて充分に注意を与えていれば、同人はこれに従ったであろうし、ひいては本件事故も防止できた筈であり、また、亡直樹については、その年齢からも、秀樹に対する以上に監護する義務があったと言えよう。しかるに原告らは右のように、秀樹および亡直樹に対し格別の監督もせず放置していたことがうかがわれるのであって、原告らには、亡直樹らに対する監督上の重大な過失があったと認められ、本件事故発生についての責任の一部は原告らにもあったと言うべきである。

(二)  次に、補助参加人らの責任について検討する。

前判示のように、事故のあった集積電柱の固定は確かに不充分であったが、本件事故の直接のきっかけは、電柱の間に突き出た枕木に乗って跳びはねた甲野二郎が作ったものであること、同人も無断で現場に立ち入ったものであるが、検証の結果および弁論の全趣旨によれば、同人は当時一一歳であって、他人が周囲に柵を設けて管理する場所に無断で侵入することの是非および枕木の上で跳びはねることの危険性などについては充分認識しえたと解されることなど諸般の事情を総合すれば、本件事故については、甲野二郎にも一端の責任があったと認めざるを得ず、したがって、本件事故は被告と甲野二郎との共同不法行為となるものと解される。

(三)  右の原告らの過失および甲野二郎の責任の本件事故についての割合は、被告の責任を六割とすれば、これをそれぞれ、三割、一割とみるのが相当である。したがって被告が原告らに対して賠償責任を負うのは、原告らの損害のうち右過失相殺率三割を控除した七割ということになる。

五  損害(請求原因第四項)

(一)  逸失利益

≪証拠省略≫によれば、亡直樹は死亡当時三歳八ヶ月の健康な男子であったと認めることができるが、幼児の死亡の場合の逸失利益の算定は、その性質上控え目になすべきものであるから、稼働期間を一八歳から六〇歳までとし、右期間を通じる収入を昭和四六年度賃金センサスの全産業、企業規模計、旧中、新高卒男子労働者の平均賃金として計算することにする(大学進学率は増加したとはいえ、いまだ一般的であるとは認められず、また、親族の家柄、資力をも亡直樹が大学に進学しえたことの根拠とするのも妥当とは思われないので大学卒労働者の平均賃金を基準とする原告らの算定方法は採用しない。)。

右平均賃金は、毎月きまって支給される現金給与額(七万三〇〇〇円)と年間賞与その他の特別給与額(二四万六六〇〇円)を合計すると、年間一一二万二六〇〇円となり、右収入を得るために控除すべき生活費を右期間を通じて五割とすると、年間喪失純利益は五六万一三〇〇円となる。なお、本件のような死亡当時三歳八ヶ月の幼児で、その就労可能年数が四二年にも及ぶような場合には、逸失利益算定の方式としては、いわゆるライプニッツ方式によるのが相当であると解されるので、同方式により年五分の複利年金現価係数八・三八〇八六〇七五(稼働終了時までの五七年の係数と同開始時までの一五年の係数との差)を右年間喪失純利益に乗じて中間利息を控除した現価を算定すると、死亡時における逸失利益は金四七〇万四一七七円となるが、万円未満を四捨五入して四七〇万円と算定する。

そして原告らが亡直樹の両親であることは前判示のとおりであるから、同人の死亡により原告らは右逸失利益の損害賠償請求権の各二分の一をそれぞれ相続したことになる。

(二)  葬儀費および墳墓建築費

≪証拠省略≫によれば、原告らは亡直樹の葬儀関係費用として約八〇万円の支出をし、また約五〇万円の墳墓を同人のために建築しようとしていること(一部は既に支払っている。)が認められる。しかし、右出費全額について被告の前記不法行為との相当因果関係を肯定することはできず、被告に賠償を求めうる葬儀ならびに墳墓建築費用は、原告ら各自につき金一二万五〇〇〇円(合計金二五万円)とみるのが相当である。

(三)  過失相殺後の損害額

前述のとおり、原告らの過失を斟酌して損害額の三割を過失相殺すべきであるから、右(一)、(二)の損害の過失相殺後の合計額は各自金一七三万二五〇〇円(合計金三四六万五〇〇〇円)となる。

(四)  慰藉料

≪証拠省略≫および前認定の諸般の事情を考慮すれば、亡直樹を本件事故で失った両親の精神的苦痛は察するに余りあるところであり、原告らの右精神的損害に対する慰藉料としては、原告両名につきそれぞれ金一五〇万円、合計金三〇〇万円を認めるのが相当である。

(五)  弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起追行を弁護士山本栄則らに委任していることは記録上明らかである。そして、本件訴訟の内容、経過、認容額等を斟酌すれば、原告らが訴訟代理人に支払う弁護士費用のうち、被告に対して損害賠償を請求しうべきものは、各自金一五万円、合計金三〇万円と認めるのが相当である。

(六)  合計額

以上を合計すれば、原告ら各自金三三八万二五〇〇円(合計金六七六万五〇〇〇円)となる。

六  結論

以上、原告らの本訴請求は、原告ら各自金三三八万二五〇〇円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和四八年三月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九四条を、仮執行宣言につき同法第一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 倉田卓次)

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